静岡発のグローバル企業。新たな成長と社員が輝く自律型組織への変革。
スター精密株式会社
常務取締役 コーポレート本部長 佐藤 誠悟
静岡高校を卒業後、青山学院大学に進学。大学を卒業後、2003年にスター精密に新卒入社。小型音響部品の製造・販売を行うコンポーネント事業部(当時)にて、ヨーロッパ市場向けの海外営業を担当。2008年にアメリカへ赴任し、小型プリンター事業における営業・マーケティング業務に従事。北米および南米市場における顧客開拓および顧客深耕を手がけ、2012年に帰国。欧米・アジア市場の営業責任者を歴任後、2020年1月、執行役員 特機事業部副事業部長 兼 営業部長へ。2021年1月からは執行役員 管理本部副本部長 兼 総務人事部長に就任し、経営理念の刷新をはじめとした社内改革を推進。2022年1月、上席執行役員 管理本部長 兼 総務人事部長に就任。2024年3月より常務取締役 コーポレート本部長を現任。
※所属・役職等は取材時点のものです。
「スターファミリー」としてつながる海外子会社が売上を牽引。
スター精密は、1950年に私の祖父が創業した企業です。腕時計やカメラに用いられる精密部品の加工・販売からはじまり、工作機械の自社生産へと発展。1970年代に海外進出を果たし、プリンターの製造・販売へと事業領域を拡大しました。
小型の精密部品を自動で加工する「CNC自動旋盤」を中心とした工作機械。世界中の飲食店や小売店などで運用される「サーマルプリンター」をはじめとした高性能小型プリンター。グローバル・ニッチ市場をターゲットとする2つの主軸事業において、世界トップクラスのシェアを獲得する製品を手がけています。
北米、ヨーロッパ、アジアに販売拠点と工場を有し、世界各国で事業を展開する当社の売上高は約9割が海外市場です。海外子会社の役割は大きく、各国の非常に優秀な社員の活躍がスターグループの売上を牽引しています。
当社の場合は、親会社が子会社を支配するような力関係は一切なく、どちらも対等な立場です。海外子会社から親会社への提言が多い点では、子会社のほうが強いかもしれません。素早い判断や対応を迫られることが多く、ときに耳が痛くなるような提言もあるほどです(笑)。
少しユニークな文化かもしれませんが、世界各国の営業現場の最前線にいるスタッフの持つ情報は市場ニーズそのもの。貴重な情報を製品開発や販売戦略へ迅速に反映することこそ、私たちの役割といえます。親会社がスターグループ全体を統率し、海外子会社が売上を牽引する。両社がバランス良く機能することで高収益体質を維持しているのです。
海外赴任で知った、主体性をもって取り組む仕事の面白さ。
私が入社したのは、2003年。小型音響部品を扱う事業部に配属され、ヨーロッパ向けの海外営業を担当しました。その後、2008年にアメリカへ赴任。小型プリンター部門の営業とマーケティングに携わり、北米と南米の10数カ国にある顧客のもとへ足を運びました。同僚のほとんどが外国人。さまざまな国籍の方たちと取り組む仕事は、とても刺激的でしたね。いろいろな方がいましたが、全員が主体性を持って仕事をしていました。
アメリカの上司はスタートとゴールしか言いません。ゴールまでの手段に口を出すことはなく、とにかくゴールへ向かうことを重視します。プロセスを自由に組んで、自ら仕事を動かしていく。アメリカでの仕事は本当に面白く、その経験は今も私の土台になっています。
それから4年後の2012年、プリンター事業の営業責任者として帰国した私は、日本とアメリカとの大きなギャップを実感しました。当社には、指示されたことを着実に進める文化が定着していて、私がアメリカで日々触れていた主体性とは正反対の働き方です。社員だけでなく、管理職の仕事に対する姿勢にも戸惑いを覚えたほどでしたね。
当時はリーマンショックで打撃を受けた経営の立て直しのために、私の父である佐藤肇が社長として指揮を執っていました(2022年12月に会長職を退任)。いわゆるトップダウン型の経営で事業を再構築し、財務体質の強化を進めていた頃です。経営方針は健全性と収益性が最優先。成長性はその次だったこともあり、当時は社員の主体性は必要なかったのかもしれません。すでに危機を乗り切り財務体質は万全、上場していて製品シェアも高い。十分に“良い会社”でしたし、リーマンショック後の経営としては適していたのだと思います。
リーマンショックから10年と少しが経過し、私は会社がもう一度成長することの必要性を考えていました。ちょうどその頃、顧客企業の社員の方々と一緒に仕事をする機会があり、そのときに間近で目にしたのが、自律・自走型で働く彼らの姿です。やっぱりこれだと思いましたね。
恐らくそのままでも、会社がつぶれることはないでしょう。けれど、自分の人生をかけるに値する会社ではなくなります。“地元の優良企業”では、満足できない。もう一度、成長したい。そんな想いが止められないほど大きくなっていきました。
自律型組織を目指し、2022年に経営理念などを刷新。
2021年にコーポレート業務全般を統括する管理本部へ異動し、2022年からは責任者に就任。そのタイミングで経営理念、パーパス、行動指針を刷新しました。さらに在宅勤務制度やフレックス勤務制度、教育制度の整備と同時に、社内SNSの運用や家族招待型の社内イベントを開催。他にも部門をまたいだ交流の機会を増やし、創業初となる社員総会も開催しました。会社の仕組みと文化の両側面から、社員の主体性を高めるための取り組みです。
さらに新たな行動指針にある「みずから行動する」「学び続ける」を役員が率先して体現するために、役員への360度評価を導入。DX研修は社員よりも先に受講しました。TOEICの受験を続ける者もいます。
企業理念の浸透は、自律型組織には不可欠です。だれもが共通の価値観をもって仕事に取り組めるよう、プロジェクト化して理念を浸透させるための施策を実施している最中ですが、時間がかかっても地道に続けていきたいですね。
戦略は継承し、それを支える仕組みと文化を変革していく。
工作機械と小型プリンターの両事業における技術力と品質、製造の安定性は、世界トップクラスだと自負しています。しかし、それだけでは戦えないのが今の時代。本当の強みは、技術力とチャネル(販売網)力を掛け合わせて築いた高い参入障壁にあります。
当社の製品は製造過程に熟練した職人が手作業で仕上げる工程があり、海外メーカーが容易に真似できるものではありません。また顧客は世界中にいて、しかもその場所は日本からはなかなかリーチできないところ。各国の主要都市はもちろん、地方の町や村の隅々にまで顧客がいるのです。
70年以上事業を営む中で築いた確たる優位性を強みに、今後もグローバル・ニッチ戦略を進めます。ただし、これからの時代にそれを実行していくためには、会社の仕組みや文化の変革が必要です。グローバル企業としてさらに成長し、働く社員が輝ける会社にしていくことを私の使命にしていきたいと思っています。
新たな主力事業の創出。まずは、既存事業の染み出し領域から。
今後は、得意とするハードウェアにソフトウェアを組み合わせ、まずは既存事業から発展させる形で染み出し領域での新規事業を進めていく計画です。具体的には、製造・物流・店舗におけるDX関連のソリューションを提供していきたいと考えています。
例えば、工作機械を納品する顧客の工場全体を最適化するようなサービスです。顧客は下町の町工場が中心で、その工場内には当社製品以外にも多様な機械があり、それぞれを個別に動かすことで生産工程を成り立たせています。電話やFAXを使った受発注も未だに現役です。製品を納品して終わりではなく、他社の機械との連携や機種選定プロセスの効率化などを通して顧客の業務全体を最適化し、生産性向上のお役に立ちたいと考えています。
また小型プリンターの顧客は、地域の美容院やカフェなど中小規模の個店が中心です。ここでも店舗全体の効率化を図るべく、レジ周りの機器やオペレーションの課題をハードとソフトで解決するサービスの提供を予定しています。さらにその先には、新たな領域での新規事業にも挑戦していきたいですね。M&Aや協業、大学との連携も視野に入れ、新たなビジネスの創出を目指します。
教育予算はひとり年間10万円。成長の機会をより多く提供したい。
数年前からキャリア採用に力を入れ始め、今ではキャリア採用比率が5割を超えました。特にここ数年は、東京の大手企業出身者がUターンで静岡に戻る際に当社を選んでくれるケースが増えています。ありがたいことに良い出会いに恵まれ、仕事への熱量や向上心が高く、主体性のある魅力的な方ばかり。さまざまなバックグラウンドをもつ方の存在がもたらす新たな刺激は、社内の活性化につながっています。
当社では、社員教育に一人あたり年間10万円の予算を確保しています。社内研修はもちろん、東京のビジネススクールに通う機会などもあるため、より広い世界での出会いと学びを成長につなげてほしいですね。
成長の機会だけは、どの会社にも負けたくありません。これからもっと働きがいのある会社になっていくはずです。このタイミングで入社される方は特に面白いのではないでしょうか。これまでの経験を存分に活かし、遠慮せずに社内をかき回してほしいと思っています。