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コンサルから地場製造業へ。若き社長が目指す「技術が働き、人が輝く」社会。

株式会社イシダテック
代表取締役社長 石田 尚

更新日:2025年9月10日

1986年、静岡県焼津市出身。静岡聖光学院中学校・高等学校 卒業。筑波大学大学院在籍中にペンシルベニア州立大学、ウィーン経済経営大学大学院へ留学し、経営工学を専攻。大学院修了後の2012年、コンサルティングファームに入社し、主にシステム展開支援、業務変革支援、基幹システム導入支援プロジェクトに従事。2015年、家業の事業継承準備のために株式会社イシダテックに入社。営業統括や経営企画を経験。2018年にスイス企業と合弁会社AO Group Japanを設立し、同取締役COOも兼務。2020年12月、代表取締役社長に就任。社員数は50人に満たない中小企業ながら、noteを活用した情報発信やAIを組み込んだ画像識別装置の開発、スタートアップとの協業など、数多くの挑戦的な取り組みで注目される。2024年より筑波大学の非常勤講師。2025年に静岡発のスタートアップ企業、ソノファイ株式会社を設立。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

生産現場にオーダーメイドで「秘密兵器」を届ける。

イシダテックは、食品・医薬品業界向けの省力化機械をオーダーメイドで開発するメーカーです。「技術が働き、人が輝く」という経営理念に表すように、テクノロジーによってより良い世界の実現を目指しています。

弊社は私の祖父が1948年に創業してから70年以上の歴史があり、父を経て私が3代目の代表となります。幼稚園児のころから、祖父が楽しそうに工作している姿をみて、いつかこの会社に関わりたいという気持ちを持っていました。

ただ、進路選択は機械工学等ではなく、経営工学の道に進み、大学院修了後はコンサルティングファームに入社しました。

いまでは従業員1700人、東証プライムへ上場している会社ですが、当時は従業員60名ほどで社内もベンチャーのような雰囲気。そこでは業務・ITコンサルタントとして、企業のシステム入れ替えや組織変革といったプロジェクトに参画して濃密な時間を過ごしました。

もともと10年はその会社で働きたいと思っていましたが、2015年12月に当時の社長である父の体調不良を機にUターンしてイシダテックへ入社することになりました。

コンサルティングの仕事に手応えも出てきた時でしたし、もっとやりたかったと悔しい気持ちもありましたが、一方で経営や組織を動かすところへの興味も強く、期待も抱きつつUターンしたのを覚えています。

入社して感じた課題感。「業務世界地図」の作成が生んだ効果。

入社前後でギャップを感じたことも少なくありませんでした。70年の歴史があるので「強固な基盤があって、継続的な営業活動がされているんだろう」と思っていたら、営業活動は口コミやリピート中心。既存顧客による安定的な引き合いがある一方、積極的な営業活動の不足を感じました。

また属人的なプロセスが多い点にも課題感を持ちました。そこで私がまず取り組んだことは業務マップ(業務の俯瞰図)の作成です。

とにかく早く業務全体の「世界地図」を作りたかった。これには前職で培ったコンサルティングスキルがとても役に立ちました。

業務マップの目的は現状把握と問題点の可視化です。問題がある箇所に対してビジョンとのギャップを少しずつ潰していくアプローチを採用しました。

全体像が分かることで、議論のポイントがわかりやすくなり、社内での問題認識の共有と議論の効率化が進んだと思います。現状把握だけではなくて変化への心理的な壁を乗り越える客観的な土台作りにもなりました。

「秘密兵器」の再定義。そして「呪縛」からの解放へ。

もうひとつ取り組んだのはスローガンである「お客様の生産現場に『秘密兵器』をお届けする」の再定義です。弊社はこのスローガンをずっと掲げていましたが、人によって「秘密兵器」という言葉の捉え方がさまざまでした。

これを社員とともに議論して言語化し、「ソフトウェアとハードウェアを融合する力」など三つの強みを明確化していきました。

この再定義によって事業アプローチにも変化が生まれます。以前は顧客の個別要望にオーダーメイドで応える形でしたが、現在はより汎用的な「業界の課題解決」を扱えるようになりました。

例えば、地場産業の抱える人手不足であったり、マグロの選別において技術の標準化・継承が困難なことであったり。そうした業界課題を扱えるようになったことがとても大きく、社内会議などでもそうした課題に対する危機感を話すことが多くなりました。

「秘密兵器」という言葉で「オリジナル製品を作って展開しなくてはいけない」という呪縛のような捉え方をしていましたが、そうではないと。オーダーメイドの強みを活かしつつ、それを自社プロダクト化して広く業界の課題解決をしよう。そうした事業戦略を取りました。

これによって、薩摩酒造に導入した酒造用原料芋の選別AIや富士通と共同開発したマグロのAI選別装置(2024年12月に設立したソノファイ株式会社で取り扱い)などDX事例につながっています。

スローガンの再定義が採用にもたらした変化。

スローガンをMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)という形で再定義し、強みをはっきりさせたことで採用にも変化がありました。

課題解決へ向かう会社の意欲が新たな才能を引き寄せ、AI技術者やロボコン優勝者など、これまでいなかったタイプの新しいスキルを持つ人材が集まるようになりました。単に新しい技術を取り込むだけではなく、会社に新しい風が吹いて可能性の広がりを感じます。

特に経営にインパクトがあったのはスイスの企業とのジョイントベンチャーを立ち上げた時。既存社員では対応できない新しい技術や文化への適応力を補うために採用した社員ですが、彼が入った途端にどんどん事業が進んでいきました。

事業推進の大きな原動力となりましたし、「うちって、こんなことできるんだ」と、会社の可能性が広がった手応えがありました。もちろんそうした人材がパフォーマンスを発揮できるよう、柔軟な制度変更、社員の職種ごとのキャリアパスや評価制度の作成なども行っています。

私自身、採用は好きです。人と人の出会いが仕事はもちろん、人生に与えるインパクトに魅力を感じています。弊社においては、社員が増えることでわかりやすく会社の対応力が上がるので、事業成長への貢献も大きいです。だから内定を出した方へ、熱いラブレターを書くこともあります(笑)。

私が魅力的に感じるのは、何かに危機感を持ちつつ行動している人。話していて面白いと感じますし、その当事者意識と行動力は働くうえでとても大切だと思います。

「技術が働き、人が輝く」社会に向けて。

これらの動きやスタートアップの設立、noteでの情報発信など新しいことに取り組んできましたが、入社時からグランドデザインがあったわけではなく、組織として「足りないピース」を埋めていく流れで今の体制ができあがりました。

いまは会社の目標として売上100億円を目指しています。これは数字以上の意味があり、100億円は業界内での存在感を確立できると思われる数字で、扱う課題のレベルも上がります。

それによって集まる仲間のレベルも上がり、仕事の質も上がる。そうすると社員が安心して挑戦し続けられる環境となる。こうした経営基盤をつくるためのマイルストーンです。

企業理念である「技術が働き、人が輝く」。これは「徹底的に技術を働かせて、人間が輝くような社会を実現しよう」というもので、そのために我々が苦労しようという思想に基づいています。

特に口に入れるもの、食品と医薬品の分野で自分達が持つ技術を活かし、日本のみならず世界中の人々に貢献していくことが目標です。

編集後記

チーフコンサルタント
池戸 岳

本文には書けませんでしたが、インタビューで特に興味深かった内容のひとつに「Uカーブ理論(文化適応理論)」に関するお話がありました。

新しい文化や環境に適応する過程で、新しい環境にワクワクして好奇心や期待に満ちている「ハネムーン期」の後には、違和感や不満を抱き始める「ショック期」に直面します。

石田社長も留学中に体験されたようですが、そこで考えたことは「いまある手札でどう勝負するか」ということ。現状の中から可能性を見出して、変化に適応する中で前に進んでいく。その石田社長のしなやかな哲学が経営にも活かされているように感じます。

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