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日本初のプロラグビーチーム。「人」が生み出す付加価値で、世界一を目指す。

静岡ブルーレヴズ株式会社
代表取締役社長 山谷 拓志

更新日:2022年8月31日

1970年6月生まれ。1993年、慶應義塾大学卒業後、(株)リクルートに入社。人材総合サービス事業に携わる。アメフトチーム「リクルートシーガルズ(現オービックシーガルズ)」に所属し、二度の日本選手権優勝を経験。アシスタントゼネラルマネジャー兼オフェンスコーチを経て、(株)リンクアンドモチベーションに入社。スポーツ組織のコンサルティング業務に従事する。
2007年、プロバスケットボールチーム「宇都宮ブレックス」を運営する(株)リンクスポーツエンターテインメント(当時)代表取締役社長に就任。2009-2010シーズンに日本バスケットボールリーグで初優勝し、黒字化を達成。
2014年には経営再建を託され、(株)茨城ロボッツ・スポーツエンターテインメントへ。代表取締役社長に就任し、2021年にB1リーグ昇格を実現した。
2021年7月より静岡ブルーレヴズ(株)(旧:ヤマハ発動機ジュビロ)の代表取締役社長を現任。日本ラグビー界初となるプロクラブの経営を指揮する。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。

日本ラグビー界で初のプロチーム。歴史あるクラブの新たな挑戦。

静岡ブルーレヴズは、2021年6月に会社を設立した、日本ラグビー界初のプロクラブです。チームの歴史は長く、1984年の創部からヤマハ発動機ジュビロの名で活動した2020-2021年度のシーズンまで、日本選手権優勝やジャパンラグビートップリーグでの準優勝、日本代表選手の輩出など、数々の実績を築いています。

新会社設立までは他のチームと同じく、企業における福利厚生の一環として運営するクラブチームでしたが、ラグビーの持続的な発展を目指すヤマハ発動機の決断によって、100%子会社としての独立分社化が決まりました。

新しいチーム名に冠した「静岡」からも分かるとおり、ホストエリアは静岡県全域です。チームの伝統を受け継ぎながらも、これまで以上に地域に貢献し、静岡のみなさんに応援していただけるチームになりたいという強い決意が込められています。

決められた予算の範囲で活動する企業スポーツから一転して、自らが収益を生み出す事業会社になったことで、チーム運営はこの1年で大きく変化しました。スポンサー獲得やチケット販売、スタジアムでの演出、ファン獲得のためのPRやマーケティングをはじめとしたあらゆる活動を自分たちで手がけるようになったことはもちろん、選手やファンサービスへの投資も可能になりました。当然、リスクを背負いながらではありますが、「ラグビー界初のプロチーム化を成功させる」という私たちの挑戦がスタートしたのです。

日本一強いチーム、世界一高い収益力のクラブを目指す。

チームの立ち上げにあたって掲げた目標は、世界一のクラブになることです。ラグビーには世界一を決めるクラブカップが存在しないため、売上規模での世界一を目指しています。

指標としたのは世界最高峰のプロリーグである、フランスの「トップ14(フォーティー)」。経営規模は、40~50億円です。現時点では半分程度ですが、10年以内の達成を視野に入れています。

もちろん、その過程では競技での日本一を狙います。富士山のある静岡を拠点とするチームとしては、日本一を目指すことは宿命といってもよいですね。

プロチームである以上、売上は自分たちで稼がなければいけません。しかし、目標の到達には、チームの努力だけでは不可能なこともあります。例えば、ラグビーの年間試合数は16試合。そのうち8試合がホストゲームですが、これはJリーグの半分にも満たない試合数です。

コンタクトスポーツであるラグビーの特性上、試合数の増加には限度があるとはいえ、現状の試合数は少ないと感じています。

他にも、観戦に適した季節のリーグ実施や試合の組み方、日本代表チームの活動時期の取り扱いなど、観客を増やすためにできる工夫は少なくありません。

こうしたリーグ全体で検討すべき点については、プロチームとして提供するスポーツエンターテインメントの視点から、リーグ全体を盛り上げる提案を行っていきたいと考えています。

ただし、他のチームの賛同を得るためには、リーグ自体に「事業化したい」「ファンを増やしたい」という意欲のあるチームが増えることが必要です。それには、チームをプロ化してもクラブ経営が上手くいくことを、私たちが証明するしかないでしょう。

かつて私が、バスケットボールのプロクラブを立ち上げたときもそうでした。上手くいくことを示すことができれば、あとに続くチームは必ず現れると信じています。

コロナ禍のファン離れ。それでも、ラグビーのポテンシャルは高い。

プロスポーツが映画や音楽などの他のエンターテインメントと異なるのは、再現性がない点です。筋書のないゲーム展開に一喜一憂し、胸を躍らせ、感動する。そんなライブコンテンツこそ、スポーツエンターテインメントの価値といえます。

ところが、コロナ禍においては、その源泉であるリアルな試合を見る機会が奪われてしまいました。さらに、現時点では、他のエンターテインメントに流れたファンが戻ってきていません。もともと認知の低い若い世代の獲得も含め、当社ではマーケティングの強化を図っていますが、こうした状況を打開し、今後のラグビー界を盛り上げていくためには、やはりリーグ全体での取り組みが必要不可欠でしょう。

スタジアムという場は、非日常。中でも、ラグビー特有の人と人がぶつかり合う音や迫力のあるプレーを目の当たりにすることは、多くの人にとって特別な体験です。魅力のあるラグビーには、まだまだ十分なポテンシャルがあり、快適な環境で最高のコンテンツを見ていただくことができれば、新しいファンもリピーターも必ず増やせると思います。

応援したくなるチームを作り、地域の活性化に貢献する。

着任から1年が経過して感じているのは、ラグビーの注目度や価値の置き方が、他の競技とは異なることです。コンタクトスポーツであるラグビーは、誰もが簡単にできるわけではないスポーツのため、ボクシングや格闘技に対する見方に近いのかもしれません。

ここ静岡は、2019年のワールドカップで日本代表が強豪アイルランドに勝利した、あの「静岡ショック」を起こした地。ラグビーチームが地元にできたこと、あの盛り上がりを日常的に体験できることを大変喜んでいただいています。

この1年で地域に溶け込んできた実感はありますが、まだ始まったばかりです。スポーツには、地域を盛り上げる力、人々を笑顔にする力があります。応援してくださる地域の人々のために、静岡県のチームとしてその役目を果たしていきたいですね。

プロクラブの運営は、“人がすべて”といっても過言ではない。

私たちが試合のチケットを販売する時点では、勝利や天候を約束することはできません。ときには負けることもありますし、応援している選手が出場しないこともあります。試合中に雨が降ることもあります。そういう意味で、スポーツビジネスは不確実性の高いビジネスです。

勝ち負けを超えて楽しんで応援していただけるチームを作るためには、勝つための努力はもちろん、選手をはじめとしたチームへの投資、スタジアムでの満足度を高める演出やイベントが必須。そこにお金を回すために、プロスポーツチームではさまざまなポジションで収益化を担う人材が不可欠です。

また、私たちは1個100円の商品から1億円のスポンサーシップまで、有形・無形の商材を、個人や法人に対して提供しています。スポンサー、地域住民、ファン、企業、行政、マスコミなど、ステークホルダーも多彩です。このように複雑性が高い分、多様な人材を必要とします。

だからこそ、一緒にチームを創っていく仲間の採用も常に真剣勝負です。私は、社会人のスタートであるリクルート時代から採用に関わってきたということもあり、人材の大切さは身に染みて理解しています。

そのため、応募レジュメはすべて目を通すようにしていますし、「経営者は、人の採用においては何よりも最優先すべき」という考えのもと、「この人を採りたい」と思えば、ときには自ら会いにいき、口説くこともあります。「採れる人を採るのではなく、採りたい人を口説きに行く」それは、自社の採用だけではなく、選手の獲得においても、もちろんそうです。

チームがあるだけでは経営は成り立ちません。プロスポーツチームの運営は、一人ひとりが生み出す付加価値が重要であり、「人がすべて」といっても過言ではないのです。スポーツビジネスの経験はそれほど重要ではなく、企画力や提案力、コミュニケーション力を必要とする仕事の経験・スキルを活かせる機会が多いと感じています。

高い目標を成し遂げる。その道のりを一緒に楽しみましょう。

今はまだスタートしたばかりのチームですが、強くなる過程をみんなで一緒に経験したいと考えています。スポンサーやファン、地元の方々が喜ぶ姿を間近で見る感動と楽しさは、何物にも代えがたいものがあります。

日本一になることは、人生の中でそう経験できるものではないですよね。このチームを通じて、一緒に実現させましょう。

ラグビーの聖地である静岡のチームが、プロチームとして初めて日本一になる。この挑戦に本気になれる方と一緒に仕事をしたいと思っています。

編集後記

チーフコンサルタント
原口 翼

インタビューでは、「チームだけにとどまらず、リーグや競技の価値の最大化を目指す」という、山谷社長の常に大きな目標を掲げて挑戦する姿勢がとても印象的でした。

これまで企業の支援のもとで活動し、自立の必要がない時代が長く続いたラグビー界から先陣を切ってスタートした静岡のプロラグビーチームが、事業化の成功例となれるか。それは、今後のラグビー界活性化の重要な試金石となる、決して簡単ではないチャレンジです。

しかし、これまでどんな逆境もはねのけて結果を出し続けてきた山谷社長なら、事業化を成功させ、本当に世界一のクラブにし、ラグビー界に風穴を開けられると思います。

新シーズンが12月にスタートする「JAPAN RUGBY LEAGUEONE」。目標に向かって突き進む山谷社長の次なる一手が、個人的にも非常に楽しみで注目しています。今後も全力で応援したいと思います!

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