企業TOPインタビュー

喜怒哀楽の瞬間と出会えるプロスポーツ経営の世界で。

株式会社スポーツBizマネジメント
代表取締役 左伴 繁雄

更新日:2020年11月04日

1955年 東京都で生まれる
1979年 慶応義塾大学法学部政治学科を卒業後、日産自動車(株)に入社。日産では英国日産自動車製造の設立に携わるなど、主に生産部門を経験。
2001年 横浜マリノス(株)代表取締役に就任。クラブが降格の危機に陥る中、元日本代表の岡田武史氏を招き、リーグ連覇達成に貢献。
2007年 日産プリンス神奈川販売(株) 執行役員就任。
2008年 (株)湘南ベルマーレ専務取締役に就任。J2からJ1リーグへの昇格を3度果たす。
2015年 (株)エスパルス代表取締役社長に就任。クラブのトップラインの引き上げと構造改革を手掛ける。
2020年 株式会社スポーツBizマネジメント 代表取締役 および株式会社 VELTEXスポーツエンタープライズ Executive Supervisor就任。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。

モノつくりの現場で20年、プロスポーツの世界で20年。

静岡県静岡市に本拠地を置く、静岡でたった一つの男子プロバスケットボールチーム「ベルテックス静岡」。その運営会社VELTEXスポーツエンタープライズ のエグゼクティブ・スーパーバイザーとして、私は現在、法人営業を中心にクラブの運営や組織作りのサポートに携わっています。 2020年にエスパルスの代表取締役を退任し、スポーツビジネスコンサルティングを行うスポーツBizマネジメントを立ち上げました。

「ベルテックス静岡」の他にも、二輪モータースポーツ法人のサポートなども行っています。「清水エスパルス」「湘南ベルマーレ」「横浜F・マリノス」とプロサッカークラブ経営を20年近く行ってきた経験、そして私のスタートであった日産自動車での20年以上の経験が今につながっています。

スポーツと自動車が、社会人としてちょうど半々くらいとなったわけですが、このことに一番驚いているのは私自身かも知れません。元はと言えば、私はモノつくりサイドの車屋です。日産自動車の生産部門でモノつくりをやっていて、英国工場立ち上げや国内生産管理や開発などに従事し、日産自動車にずっといるつもりでした。

しかし1990年代後半に会社が苦境となりルノーとアライアンスを組んで日産リバイバルプランをやったあたりから、私は経営の方へとシフト。その後、日産の子会社であった「横浜F・マリノス」の運営会社での経営をやらないかと声をかけられました。プロスポーツ界に20年近くいることになるとは思っていませんでしたが、優勝や降格、資金繰りの崖っぷちの奮闘、支援者やファン、現場との喜怒哀楽がつまった瞬間を味わえる稼業の喜びを今は深く感じています。

財界トップが、土地の人達が喜ぶことを大事にしてくれる静岡。

「清水エスパルス」クラブ運営は、私のスポーツビジネスへの想いをいっそう強くするとともに静岡への愛着を深めることとなりました。「ベルテックス静岡」との縁を結ぶにあたっては、5年間熱心に応援してくださり、お世話になった静岡市民の方々に、何か恩返しがしたいという思いも強くありました。

静岡の人は、とても地元を大事にします。同じ街に住む人、同じ中学高校の出身者、同郷の仕事仲間を大切にします。だからこそでしょうか、地元にあって他県と試合をするスポーツ競技をとても大事してくれます。

それは静岡の財界人も同じですね。静岡の財界は、土地の人がとても多い。同族経営の会社や静岡エリアだけで商いをやっている、100億円200億円規模の会社が少なくありません。静岡と同じ人口70万くらいの地方都市だと、上場企業ができたら社員は異動や出向が続いて、会社の中に土地の人は少ないという状態になるのですが、静岡は違います。企業の利益とは別の部分で、土地の人を大切にして、その人達の生活を成り立たたせるために自分達は存在しているんだ、というような企業文化を持っている会社が大変多い。

静岡の交響楽団など芸術文化への寄付やプロスポーツのスポンサー社数にも、それが現れています。財界トップが、土地の人達が喜ぶことを大事にしてくださるおかげで、「清水エスパルス」時代はもちろんのこと「ベルテックス静岡」にも大きなご支援をいただけています。他県出身の私のことも、ありがたいことに前クラブ退任後も変わらずに大事にしていただき、街ですれ違いざまに声をかけてくださるなど、人対人の血の通ったお付き合いができる都市だと感じています。

大企業で学んできたメソッドを、地元の会社で活用してもらう。

そのような魅力的な土地柄である静岡ですが、一方ではその弊害もないわけではありません。自分の会社や社員を大事にするということで、人事も静岡の人間だけで延々とやってきているために、いろいろな機能別の経営の仕方やモノつくり、営業、マーケティングなどの分野でダイナミックなメソッドを得ることは難しくなります。その結果、静岡はコンサル会社にとって大変にいいマーケットになっているわけですが、私は「それなら、外で経験を積んできた優秀なUターン人材をいれたほうがいい」といつもアドバイスしています。

静岡に生まれ育ったけれど、外の空気を知っている人、たとえば「実家は静岡にあるけれど、ソニーで働いています」とか「日立製作所に新卒で入社して15年です」、「三井物産に入社しました」という人に、同業他社で地元にはこういう会社があるから戻ってこないか、と声をかけて口説いてみるのです。大きな企業で学んできた機能別のメソッドを、地元の会社で活用してもらうのです。

当然ながら最初は摩擦や衝突もあるでしょう。私もたくさんありました。しかし、土地でクローズしてやってきた人達が経験したことのないような会社の業績の上げ方を知っていて、かつ地元愛のある外での経験者を社内に持つということは、最終的には地元の人達の幸せにつながるし、何よりもそこで働いている全社員が刺激を受け活性化されていき、元気になると思っています。

Uターン人材を活かすためには、必ずラインの中にいれること。

私はこれまでの経験上、Uターン人材採用には大賛成です。「ベルテックス静岡」でも大澤歩選手や大石慎之介選手などの主力クラスが上位カテゴリーのクラブオファーを蹴って、地元静岡にクラブができたというのですぐに戻ってきてくれました。彼らは外でプロチームのありようを学んできていて、それをできたばかりのチームに植え付けようとしてくれているのですが、まったく同じことがスポーツクラブだけではなく他の会社でも言えると考えています。

ただ1つだけ絶対に守らないといけないことは、Uターン人材の活かし方です。それは「必ずラインの中にいれる」ということ。権限と責任をちゃんと持たせて指揮命令系統のラインの中に入れないと、「そんなの、うちのやり方じゃない」と言われて結局は何もできなくなります。

例えば顧問のポジションであれば、良かれと思って何か言っても、強い権限がないため発言が選択されない場合があります。しかしそれが副社長であれば、発言は業務命令となり、言われた人間が選択拒否することはできません。それで成功したら「さすが」となりますし、駄目だった時には自らの責任となります。そもそも権限が不十分で責任ばかり追及されるところに、優秀な人は入ってきません。

例えば、オーナー系の企業で息子さんが引き継ぐというときにも、私は「親父さんが退任する前に、地元出身のエグゼクティブクラスの人材を、顧問じゃなくて息子さんの一個上の等級のところに置いて、学習させてはどうか」と言っています。それは襟を正して上司から学ぶ環境を、生まれた時から顔を見てきた親子間で持つことは必ずしも簡単ではないからです。地元出身で外を知り、切れ味がよくて優秀なちょっと年上の人材をつれてきて少し緊張感を持たせることは、同族経営を右肩上がりでやっていくうえで、一つの突破口になっていくのではないかと思います。

今後の日本は、エコノミースケールが変わっていくのでは。

今後の日本のことを考えると、私はリージョンオリエンテッドの経済圏を作って地産地消するような形に変わっていくのではないかと思っています。それは他を排除するということではなく、経済の規模が変わっていくということです。その中でスポーツビジネスは、地域密着ということで親和性が高く、とりわけ静岡の中でのスポーツは既に地域を一番に応援するという素地が他の地域よりもできあがっていますから、とても期待しています。

「ベルテックス静岡」や「清水エスパルス」にスポンサー企業としてお金を出してもらうことによって、その企業だけではできない方法で静岡の人を喜ばせることができますよ、と伝えると多くの企業が「そうか!」と言ってくれます。こんな都市はあまり他にはないと思います。

決して大きくはない会社でも「うちなんかがスポンサーやっていいの?」なんて言いつつ、「この100万円が、明日への1勝につながって、静岡の人達がとても喜んでくれるのだったら出しますよ」と言ってくださる。経営者は皆、自分は何で社長をやっているのかと考えていて、たどり着くのは「商品を使ってもらっているお客様に喜んでもらいたい、雇っている人間に幸せになってもらいたい」ということ。やっぱり人間に結びつくんですよね。

私も、自身のこれまでの足跡を少しでも多くのプロスポーツ従事者に還元するとともに、一人でも多くの方々が喜怒哀楽あふれる時間を享受できるよう、スポーツビジネスを通じて貢献したいと考えています。

編集後記

チーフコンサルタント
原口 翼

気さくで飾らないお人柄で、いつも温顔な左伴社長。インタビューでは、これまでのプロスポーツクラブ運営の知見・ノウハウだけではなく、スポーツ産業への思いや、明確な使命感、強い信念で地域活性に取り組まれているお話に引き込まれて、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

他にも、実体験を踏まえたUターン人材の重要性や活かし方のお話を伺ったのですが、事業拡大の役割を担えるのは“外で十分なビジネス経験を有し、地域の良さを理解し、愛着があり、そこにコミットできる人材”、まさに「Uターン人材」であるという点に、非常に共感できました。

プロスポーツクラブの運営というのは一見あまり馴染みのない事業のように感じますが、経営において大切なことや、その道のプロフェッショナルである人材の採用・育成は、どの業種にも通じていることを実感するインタビューでした。

企業TOPインタビュー一覧

ページトップへ戻る